1.小児難聴(聴覚障害の発症・発見)の現状
小児期の難聴は大きく、伝音難聴と感音難聴に分けられます。伝音難聴の場合は軽〜中等度の難聴を示し、多くは中耳炎や中耳奇形が原因で中耳炎の治療や手術で改善します。一方、感音難聴は内耳(蝸牛)や聴神経が原因でおこり、しばしば回復は困難です。先天性難聴はほとんど中等度〜高等度の感音難聴を示し、出生1000人に1人と比較的高い頻度でおこります。 耳鼻科では年齢にあった幼児聴力検査(BOA:聴 性行動反応検査、COR:条件詮索聴力検査)や他覚的聴力検査(ABR:聴性脳幹反応やOAE:耳音響放射)を行い、聴力を調べます。先天性難聴の原因の半数は胎内のウイルス感染や他の合併奇形や家族性難聴などの難聴のハイリスクが疑われるお子さんで、あとの半数、出生2000人に一人の割合ではリスクのないお子さんにみられます。ハイリスク児は乳児期に聴力検査を受けることが多いのですが、リスクのないお子さんは難聴を疑われることがなく、2、3歳になってはじめて難聴がわかります。また軽度の難聴では大きな音には反応するため、就学期近くに発見されることもあります。 お子さんの音への反応が鈍い、ことばの発達が遅い、構音がはっきりしない場合は、専門医の診察のもと聴力検査を受けることが必要です。
2. 新生児聴覚スクリーニングとその必要性
小児難聴の精密検査はABR(聴性脳幹反応)で行いますが、鎮静が必要で1時間程度かかります。近年、自動判定機能のある自動ABRが開発され出生直後に多くの産科施設でおこなわれています。授乳後の自然睡眠中で検査時間は5-10分程度と簡便におこなえ、精度は98%程度です。新生児スクリーニングがなぜ必要か、というとまず、スクリーニングしなければ難聴児が発見される年齢は1歳半から2歳と遅くなってしまいます。難聴児の言語の発達においては、早期発見、早期療育が重要であり、生後3ヶ月以下で発見されたお子さんはより就学後の言語能力が正常児に近いことが示されています。 また、難聴児の発生頻度は1000人に一人と高いこと、生後すぐに行える自動ABRという有効な機器があることから、全出生児が聴覚スクリーニング検査を受けることが望ましいと思います。スクリーニングで要精査となった場合、耳鼻科を受診して聴力検査を受けることが必要です。お子さんでは発達段階によって聴力変動がありますので、定期的に検査を受けます。 また、新生児聴覚スクリーニングをパスしても10万人に一人はその後難聴をきたす場合があります。ムンプスなどのウイルス疾患や遺伝性難聴、内耳奇形のために徐々に難聴が進行するのだろうと推測されます。 1歳半健診、3歳児健診で相談していただいたり、心配があれば耳鼻科専門医を受診することが必要です。
3. 早期療育の必要性
新生児スクリーニングの普及など難聴の早期発見は早期療育につながります。難聴児の療育のためには適切な補聴器を装用して音が聞こえる環境をつくり、言語聴覚士(ST)や聾学校の乳幼児相談室など専門の指導を受けて、言葉を育てることによって健聴児に近い良好な言語発達を得ることができます。聴覚障害児は、生まれてから数カ月、場合によっては数年間、その障害に気付かれないまま成長するのが現状ですが、聞こえない時間が長ければ長いほど、言葉の発達の遅れが大きくなります。しかも、言葉の獲得には臨界期があり、ある時期までに言葉の刺激をまったく受けなければ、言語を獲得が困難になります。難聴をできる限り早期に発見し、速やかに教育を開始することは、最も大切なことです。中には補聴器だけでは聞こえが十分にならない高度難聴のお子さんもいます。6ヶ月以上補聴器装用して専門の療育を受けて効果がない場合は人工内耳という電極を内耳に直接埋め込む手術を受けることによって十分な音が補償されます。人工内耳の手術も1歳半以降できるだけ早期に手術を受けることによって、良好な言語発達が得られることがわかってきました。近年、補聴器や人工内耳の機器の発達、難聴児指導の方法の発展により難聴児も健聴のお子さんに劣らない良好な言語発達が得られています。